制作会社の選定はWeb担当者にとって悩ましいところだ。どうやって選んだら良いのかわからないとよく聞く。相見積を取ったところで会社によって金額が全く異なり、相場もないので選定基準に困る。ここではWebに詳しくないWeb担当者でも安心して選定できる制作会社の選定方法とその後の付き合い方について解説する。
まず相見積をとっても値段に驚くほど差が出る理由について説明しておきたい。
「○○の条件で見積もってください」とある程度の要件を決めていても、Webサイトはそもそもオーダーメイド品であり、細かい仕様やどんなコンテンツを作っていくか、どう見せていくのかは制作会社がユーザーへヒアリングした結果を元に固めていく。つまり、相見積を依頼しても、制作会社がどのようなコンテンツを検討しているのかによって、金額が大きく異なる。見積書と一緒にて提示される提案書の中身をよく比較する必要がある。
また、Webサイトはデザインも開発も技術料である。プロダクト商品のように仕入原価はなく、機械が作ってくれるわけでもない。各社がクオリティに見合った技術料を設定し金額が決まるだろう。そもそもこの技術料が大きくばらついている。そのため市場の中で相場が中々できない。
ではこれらのことを念頭に、まずは制作会社に見積りを依頼するときのポイントを説明したい。
いくつかの制作会社から相見積もりをもらうコンペの場合、選定に際しての制約(コスト重視や納期重視など)をはっきりさせておくことで制作会社は提案がしやすく、無駄な提案がなくなるので双方にとってよいだろう。
例えば、単にコンペだと伝えられた場合、価格競争になることをやはり制作会社側としては懸念する。じっくり時間をかけて企画を練り、よい提案ができてもコスト重視だということではじかれてしまうリスクもある。
であれば、コンペであってもしっかり予算を提示してもらうか、コスト比較ではなく提案重視のコンペであることを伝えられていれば、提案活動にも熱が入る。そもそも、企業のWebサイトはオーダーメイドのビジネスツールである。企業に合わせた提案をするためにヒアリングと調査、提案に時間を割かなければならない。単に価格競争になるかもしれないコンペは制作側にとっても依頼側にとってもいいことはないだろう。
それでは実際に選定する際の3つのポイントについて解説しよう。
ヒアリングが終わり、制作会社から提案書が出された際に、課題の本質や制作の目的・背景などがしっかり明示された上で戦略が立てられているかどうか、再度チェックする必要がある。
綿密なヒアリングをしていても、情報共有というのは難しいもので、一回で100%伝えるのが難しい上に、文面に残して共有しておかなければ、人の解釈は少しずつ変わっていき、後々何かが違うな、となることもある。
制作会社選定の際に見るべきポイントはどこだろうか。これは提案力を見ることではないだろうか。制作会社があなたの会社にマッチしたWeb戦略を打ち立ててくれているのかを見るのだ。
重要なのはあなたの会社が抱えている悩みやリニューアルの背景・目的を理解した上で、あくまでもあなたの会社の規模感から解決できる提案をしてくれているかどうかだ。
あなたの会社の規模感というのは、Web戦略に割けるリソースがどれくらいあるかを指す。時間的リソース、資金的リソース、人的リソースなどが該当するだろう。よいWeb戦略も中途半端にしか実行できなければ意味がない。
実行するためにはそれだけのリソースが必要だ。制作会社にリニューアル後の運用を任せるのであれば資金が必要であるし、自社内でWebメディアの運用をするのであれば、人的リソースが必要だ。
Webサイト制作の目的にターゲット時期がある場合(例えば年末までに○○を達成しなければならないといった場合)は、成果をそれまでに出すための戦略が必要だ。
できたらいいなではなく、実際にできるという現実性のある戦略の提案、いわば絵空事ではない提案をしてくれるかを見るべきだ。
いくら技術があっても意欲がなければ意味がない。積極的に提案をしてくれたり、自主的に動いてくれる会社なのかをよく見極めよう。特に営業担当と制作サイドが分かれているは注意が必要だ。
選定する前に、実際に制作をしてくれる担当者と顔を合わせておきたい。仕事は人間関係の上に成り立っていると言って過言ではない。
以上、選定に際しての3つのポイントである。
今度は制作会社との付き合い方において重要なことを2点ほどあげて説明する。
提案をする側としては、あなたの会社からもらう情報は戦略を左右する大きな要素だ。悩みや目的が社内で明確になっていてそこに役員含めブレがないこと、つまり担当者のなんとなくの主観で思っている悩みや目的ではなく、企業としてどう考えているのか整理がついていることが非常に重要だ。
そしてWeb担当者は企業が今とっている戦略やどういうツールを使っているのか、営業がどういう営業をしているのかなど、把握していなければならない。
制作会社はあなたの会社の全体的なビジネスフローの中でWebサイトの適切な位置づけと役割を考え、他のツールとの連携など含めて総合的な戦略を考え出す。そのために、あらゆることをヒアリングしなければならないが、そのヒアリングで得た情報は戦略の前提事項となるものである。質の高い的確な情報を社内で抽出する作業が求められるし、制作会社にはヒアリング能力とまとめる力が必要だ。
制作会社との打ち合わせには役員や営業担当者も同席してもらうなど、社をあげて取り組む姿勢が必要だろう。ぜひ検討されたい。
あなたの会社にとって一番いいのは、親身になって付き合ってくれる制作会社ではないだろうか。とにかく制作して納品して終わりではなく、いつも親身になって相談にのってくれるそういう制作会社が運用のフェーズでも必要である。
Webサイトは作った後に運用していくものである。運用を明確にするためにWebサイトの役割を明確にし、KGIとKPIを決めて運用することが望ましい。そして、仮に予算の関係上、運用に制作会社が入らなかった場合でも、あなたの会社が何かアドバイスを求めたときに親身になって提案してもらうことができれば、Webサイトを最大限活用できるだろう。そういった意味で提案精神に優れた制作会社をしっかりと見極めておくことだ。
また、Web担当者としてある程度Web戦略を考えられるようになることは、制作会社とより良質な議論の場を築く意味と、自社で積極的にプロモーション活動をしていく意味で大切だ。それは必ずしも優れた戦略を考えられる必要があるということではない。戦略的なWeb活用を自社で積極的にやっていこうというスタンスをもつことが重要なのであろう。
制作会社も人間である。クライアントからも積極的な提案があった方が、なんとか期待に応えたいと思うわけだ。
制作会社とのコミュニケーションのとり方として一つ参考にしていただいてよいかと思う。
筆者は現在依頼される側にいるが、昔は別の業界で依頼する側にずっといた経験がある。
依頼する側であろうがされる側であろうが、どちらが上ということはないはずなのだが、数多くの現場を見てきた結果、依頼する側が上だと思っている人は残念だが少なくはない。
しかし、あえて声を大にして言いたいのだが、依頼する側で自分が上だと思っている人は損をしている。そんな状態で良い人間関係は作れないし、先に書いたがビジネスは人間関係の上にしか成り立たない。
依頼する側される側どちらも経験した上でいうのだが、どちらの立場にせよ、相手のことを考えて動ける人々がいつもよいビジネスをしていると感じる。