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AI時代に制作会社の仕事はどう変化しているのか

Tanaka Akiyuki
CEO

はじめに

ChatGPTが登場したのが2022年11月、それから3年ほど経ちました。カフェで隣の人が「ChatGPTが〜」なんていう会話を聞くことも珍しくなく、完全に市民権を得た感があります。現在ではChatGPT以外にも様々なAIが一般的なものとして普及してきたように思います。何かを学習するときのサポートとして、旅行に行くときの旅程作成の依頼、興味のある動画や文章の要約の依頼、あらゆるシーンでAIが使われるようになりました。

制作会社を取り巻く環境はどう変わったのか

Web制作会社の現場では、コーディングやプログラミングとAIの相性が非常に良いこともあり、コーダー・エンジニアでAIを使わない人はいないのではないでしょうか。そればかりかデザイナーもAIを使います。そうです、使い方次第でほとんどどんなシーンでもAIは使えるような身近な存在となりました。

そんなAI時代に、制作会社の仕事は具体的にどう変化してきたのか、それについて私の経験や周囲の話をもとにまとめていきます。

AI時代に変わった制作会社の制作方法

業界理解・リサーチ

Web制作会社は様々な業界のホームページを制作するので、普段関わることのない業界の方と接点を持つことも少なくありません。そのようなケースでは最初は業界知識ゼロであったりするので、打ち合わせ前にある程度知識を入れることになるのですが、AI時代は便利なもので、YouTube等の動画や各種WEBサイトのリンクを渡すだけで、中身を要約してくれます。さらにこちらから質問をするとそのソースをもとに回答してくれるので、クライアントの業態に近い企業のホームページなどの情報源をまとめて、そこから必要な情報をAIにまとめてもらうことができます。

構成・コンテンツ検討の補助として

全体の構成や各ページ内のコンテンツの検討にもAIは使えます。あくまでも補助として使っていますが、かなりいい感じでアイデア出しをしてくれるので、そこからクライアントのホームページにより適切な構成やコンテンツを精査していく作業をします。これに関しては個人的には時短になっているというよりは、風呂敷を広げてより幅広いアイデアから検討できるようになった感覚の方が強いです。

私の個人の感覚としては、結局ここに人がかける時間は変わっていないように感じています。ただリサーチした内容を別途資料にまとめたりする場合は、資料作成にかける時間などは時短できるかもしれません。

バナーデザイン

画像生成AIはいつも私たちに衝撃を与えてくれますが、その中でも最近話題が付きないのがGoogleが提供するNanoBananaという画像生成AIです。実際に使ってみると驚くほどのクオリティで意図した画像を生成してくれます。特に「意図したものをより正確に生成する」という点において目を見張るものがあります。つまりプロンプト(指示出し)に対して、より正確な画像を生成してくれます。

自分で運営するブログなど個人レベル、あるいは社内レベルでの制作であればNanoBananaで生成した画像をそのまま使えると思います。クライアントワークだと細かい調整も入るので、結局デザインデータで制作する必要がある、というのが現時点での個人的な見解です。それでもアイデア出しとしてより具体的な参考バナーを数十秒で制作できるのでデザインのワークフローが大きく変わります。より幅広く、より具体的なプロトタイプデザインからクライアントに方向性を選んでもらうことができるようになります。

バナー制作の単価は下がるのか

SNSではAIでバナー制作をすることによって1枚あたりの制作単価が下がるようなニュアンスの投稿も見られますが、私はこれについてはクライアントと前提条件をにぎらないと難しいと思っています。

先ほど述べたように画像生成AIでバナーを制作しても細かい修正依頼があった場合にAIで全部やりきれるか疑問があったり、バナーだとサイズ違いはもちろん、別パターンの制作などもあるので、結局デザインデータを持っていないと対応が難しくなるケースもありそうです。NanoBananaは部分的な修正も得意としているように感じますので、NanoBananaのみでいけるケースも考えられますが、クライアントとAIの限界について握っておかないとトラブルになりかねません(この点のみならず商用利用における様々なリスクについては同意を得ておく必要があると思います)。

コーディングの補完として

AIがコーディングをサポートしてくれることでコーディングが圧倒的に楽になりました。自分でコードを書いていくとAIがコードを予測補完してくれるので、それを「受け入れ」していくだけで、ひとまとまりのコードが短時間で完成します。また、JavaScriptなどは、要件を明確に指示し、その通りにコードを作成するように依頼すると大方目的のコードが自動生成できます。

もちろんこれらの方法で出来上がったコードはいつも完璧なわけではなく、手直しはそれなりに必要になることも多いので、言葉で書いているほどシンプルなことではありません。

また、一般的にコーダーは本当にゼロからコードを書いていくというよりはスニペットといってよく使うコードの塊はある程度持っているものなので、全部ゼロから手書きであったものが、AIによってすべて補完されていったというわけでもありません。ただそれでもコードを自分で書いていくという作業から解放されるシーンが多くなりました。

私が個人的に思う「特にこんなコーディングシーンで助かる」というのをピックアップします。

スニペットにはないコードを書くとき

先述した通り、よく使うコードの塊(主にWordPressやJavaScriptでよく実装するコードなど。HTML/CSSはデザイン次第でコードが全く変わるのであまりスニペットを使うという概念はないと思います)はスニペットで持っていることが多いので、そこはむしろスニペットを使った方が、記法やルールの一貫性も担保しやすくて良いと思っています。

ただ、スニペットに持っていない普段頻繁には使わないコードなどは、AIで生成してもらうとコードが一瞬でできるので、とても楽です。先程も言った通り、そのコードがいつも100%要件を満たしているとは限らなかったりするので調整が必要なことも多いですが、それでもかなり楽になります。

繰り返しのコードを書くとき

例えば、企業沿革のような縦に長い表形式のデザインはよくあります。1行1行は中身のテキスト以外は同じ雛形コードを繰り返しているので、コードをコピーして何十行分のテキストを差し替えていくのですが、手作業だととにかくストレスです。

ですがAIに雛形コードと対象となる表の元データを画像でもテキストでも識別できる形で渡せば、一瞬で雛形コードにテキストを埋め込んだものを生成してくれます。

AI時代に見た良い兆し

私が制作会社の一員としてこのAI時代をどう見ているのか整理してみます。AIの台頭によってSNSを中心に「作業的なデザイナー、コーダーはオワる」といった風潮が広がってきたように思います。昔であればたとえ作業的であっても、コスト重視のクライアントを中心にビジネスは回っていたと思いますが、これからの時代はそうもいかないように思います。

ただこのような話がSNS上でまわっていくのは私はいいことだと思います。すべてがそうとは言いませんが、本来ホームページ制作はマーケティングの一環として制作されるものがほとんどです。目的はブランディング、認知獲得、集客、売上強化、採用など様々ありますが、ホームページにこれらの役割があるなら、設計が非常に重要になります。

AI時代の到来で皮肉にも本来重要視されるべき考え方が、改めて言語化され、表に出てきたように思います。

制作会社の価値はより「設計力」へ

制作会社の価値は今後より一層「設計力」にシフトしていくと思います。ただ実際には、少なくとも7~8年前、もしかしたらもっと前からそういう流れは明らかだったと思います。

AIの時代が来るよりもずっと前から、テンプレートを使ったホームページ制作でそれなりのホームページを素人でも制作することはできました。また、WIXや最近流行りのSTUDIOのように、デザインソフトのような専門的な操作なく画面上で簡単に自分でデザインを作りながらそのままホームページを公開できる仕組みも以前からあり、これもある程度操作感を掴めばプロではなくてもホームページを作成することができました。

AIの時代になって、少し違った側面から改めて”設計力”の重要性が問われているということです。

AIで制作力が均一化されるわけではない

また、誤解してはならないのは、AIを使って制作すれば、その人のデザイナー・コーダーとしての能力に関係なく誰でも均一な質で制作ができるわけではありません。優秀なデザイナーやコーダーほど、AIをより良い形で使うことができます。

デザインに関して言えば、AIによってアイデアは拡張され、初速が圧倒的に早くなるものの、最終的な調整あるいはジャストアイデアから仕上げの過程で、優秀なデザイナーの力が発揮されるでしょう。

コーディングに関しては、オリジナルデザインを完全にAIのみでデザイナーの思惑通りコーディングさせるのは無理だと思います。その意味ではAIは補完的に使われますが、ベースとなるHTML/CSSの設計が適切でなければ、AIでいくら補完してもスピードが早くなるだけで質は望めません。

まとめ

今回はAIがWEB制作会社に与えている影響について、現場の視点から書いてきました。変化がびっくりするほど早いのでこれからもAIの動向に目が離せませんが、デザインとしてもコーダーとしても、完全にAIに頼る方向で考えていくのは早計で、適切な技術をベースとして持つことが重要だと改めて感じました。